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【アラベスク】  第9章 蜜蜂



第2節 水と油 [12]




 携帯の向こうでケタケタと笑う詩織の声をバックミュージックに、聡と瑠駆真はもう目が点。
「何がババンッだ、この変態っ! だいたい私のサイズなんて知らないクセに」
「あ〜ら、バカにしないでよ。裸見ればだいたいサイズくらい判るのよ」
 美鶴のは… だ………
 ゴクリと生唾を飲み込む二人の青少年。
「そんな出任(でまか)せには乗らないからね」
「あららぁ、そんな事言っちゃう? だったら本当にバラしてみましょうか?」
「冗談でしょう。やめてよっ!」
 二人の言い合いを聞きながら、硬直したままの聡と瑠駆真。
 スリーサイズって…… おいっ
「ねぇ、聡くん、瑠駆真くん、聞いてるぅ?」
「あ、はい、聞いてます」
「その声は瑠駆真くん? と言うワケで、アタシ、待ってるからねん」
「待ってなくていいっ」
「ちょっと、これ以上邪魔すると、本当にサイズ言っちゃうよ?」
「サイズは関係ないでしょっ! だいたい…… ほら、二人はこれから午後の授業があるんだから。お母さん、二人にサボれって言うワケ?」
「あんっ たまにはいいじゃない。ねぇ 聡くん」
「は、はぁ」
 などと答えつつも、いいのかな? と首を捻ってしまう聡。ほんの数分前まではサボる気満々だったのに、なぜだか詩織の声を聞いていると、ちゃんと学校が終わってから行くべきか? などといった健全な考えが湧き上がってくる。
 ひょっとして美鶴の母さんって、子供の躾や教育に奮闘しているそこらの母親たちよりも、よっぽどすげぇ母親なんじゃねぇの?
「だいたいさぁ 自宅謹慎だとかいって朝から美鶴がブスッと居座ってるから、この部屋も辛気臭くなっちゃってさ。瑠駆真くんと三人でパァッと明るく楽しもうよっ!」
 両手を広げてあっけらかんと言い放つ詩織の姿が、瑠駆真と聡の目の裏に浮かぶ。
「それが親の言う言葉かっ!」
「だって、そもそも聡くんと瑠駆真くんが来たいって言ってるんでしょう? 来たいって言ってるんだから、迎えてあげればいいじゃない」
「私は来て欲しくないの」
「あぁっ! もううるさいわねぇ。こうなったら本当にサイズ、バラすからねぇ」
「やめろっ」
「いきまぁ〜す。上から……」
「やめろっ! 瑠駆真っ 聡っ 聞くなっ!」
「えっ 聞くなって」
「電話切れっ!」
「えぇっ!」
 思わず二人で携帯を見つめる。
 切れって言ったって、でもせっかく繋がったのに。
「そ、それは無理だよ」
「無理じゃないっ 切れっ!」
「瑠駆真くーん、聞いてるぅ? 上からねぇ」
「お母さん、電話返してっ! 瑠駆真っ 電話切れっ!」
「き、切れないよ」
「切れっ!」
「そんな… だって昨日から全然連絡取れなくって、やっと繋がったのに、そんな簡単に切れワケない」
 とりあえずこちらの言い分も聞かせるべきだと瑠駆真は必死に早口で捲くし立てるが、それは詩織によって無残に遮られる。
「ちょっと美鶴、痛い… たかだがスリーサイズじゃない」
 こっちの話、全然聞いてない。
「だったら自分のサイズをバラせばいいだろうっ!」
「いやん、恥ずかしい」
 瑠駆真は思わず瞳を閉じ、聡は上目遣い。
「殴るぞ」
「殴ったら本当にバラす。あーもうアタシ怒った。バラす、バラす、本当にバラしちゃおうっと。美鶴のスリーサイズ、上からいきまぁす」
「やめろぉ! わかった、聡っ! 瑠駆真っ! 学校が終わったら来い! 来ていい。来て構わないっ だから頼む、電話切ってっ 切ってくださいっ! お願いぃぃぃぃっ!」
 ブチっ!
「あ」







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